綱領・四つのテスト

四つのテスト・言行はこれに照らしてから

●真実かどうか
●みんなに公平か
●好意と友情を深めるか
●みんなのためになるかどうか

THE 4-WAY TEST of the things we think, say or do

●Is it the TRUTH?
●Is it FAIR to all concerned?
●Will it build GOODWILL and BETTER FRIENDSHIPS?
●Will it be BENEFICIAL to all concerned?

四つのテスト・その由来をひもとく

ダレル・トンプソン(米国カリフォルニア州モローベイRC)
 今から60年以上も前の大恐慌のさなか、一人のロータリアンが4項目からなる簡明な倫理指針を考案しました。この指針は、窮地にあった彼の会社を救うのに役立ったのです。この指針が表現していた内容や信条はまた、ほかの多くの人たちに対しても、倫理的羅針盤を提供することになりました。やがて、国際ロータリーによって採用され、広く知れ渡ることになったこの四つのテストは、今日では、ロータリーの基本理念の一つとなっています。今世紀におけるロータリーの最も素晴らしい声明の一つと言ってもよいでしょう。

創案は七つのテスト

 この四つのテストの創案者であるハーバート J.テーラー(ハーブ)は、やり手で卓越したセールスマンであり、人の上に立つ人物でした。ハーブは行動家で、信仰心が厚く、道義を重んじる人物でした。1893年に米国ミシガン州に生まれたハーブは、イリノイ州エバンストンのノースウエスタン大学を苦学の末、卒業しました。卒業後、彼は、YMCAおよび英国陸軍福祉機関の任務で渡仏し、第1次世界大戦では米国海軍の補給部隊員として従軍しました。1919年にグロリア・フォーブリックさんと結婚して、米国オクラホマ州に新居を構えたハーブは、同地でシンクレア石油会社に勤務しました。彼は1年後に同社を退社し、保険・不動産・石油リース仲介業を始めました。
 数年に及ぶこの事業でいささかの成功を収めたハーブは、1925年にイリノイ州に戻り、シカゴのジュエル・ティー社に入社、とんとん拍子に昇進しました。そしてやがてシカゴロータリークラブの会員となりました。1932年、ジュエル・ティー社の次期社長候補であったハーブは、破産寸前状態にあったシカゴのクラブ・アルミニウム社の再建を依頼されました。調理器具メーカーの同社は、総資産額を40万ドル上回る負債を抱え、倒産の瀬戸際にありましたが、ハーブはこの難事業を引き受け、危機にひん瀕した同社に自らの運命を託したのです。彼は、ジュエル社を辞め、これまでの給与の8割減という収入でクラブ・アルミニウム社の社長に就任しました。しかもそのうえ、運営資金に充てるため、自己資金6,100ドルを同社に投資したのです。
 信仰心の厚いハーブは、同社を建て直し、大恐慌下の沈滞ムードを払拭(ふっしょく)するための手段として、社員たちに倫理的価値観の目安となる簡潔な指針を提供すべく、神の啓示を求めて祈りをささげました。
 社の倫理訓について構想をめぐらせたハーブは最初、およそ100語からなる文章をしたためましたが、これは長すぎると判断しました。そこでさらに推敲(すいこう)を重ね、それを7つの項目にまとめたのです。四つのテストは当初は、七つのテストだったのです。しかし、これでも長いと考えた彼は、それを自問形式の4項目にまとめ上げ、それが今日の四つのテストとなりました。

広告に適用した四つのテスト

 次にハーブは、できあがった項目を社の4部門の部長にはかりました。その4人はローマカトリック信者、*クリスチャンサイエンティスト、正統派ユダヤ教徒、長老派教会員という人たちでした。四つのテストが自分たちの宗教上の教義に反しないばかりでなく、私生活ならびに職業人としての生活の模範的指針になるものであることで、意見の一致を見ました。
 このようにして、「言行はこれに照らしてから」の四つのテストが誕生したのです。

●真実か どうか
●みんなに公平か
●好意と友情を深めるか
●みんなのためになるかどうか

簡潔さの中に深い意味を包含するこのテストは、事の大小にかかわらず、クラブ・アルミニウム社が諸事決定を下す際の基本となったのです。しかし、テストというものはどんなものであれ、実際に検証される必要があります。実社会でうまくいくだろうか? 事業家がその指針に従って仕事をこなしていけるだろうか? ある弁護士はハーブにこう言いました。「もし私がこのテストを厳密に実行したら、私は飢え死にするでしょう。ビジネスに関して言えば、四つのテストは絶対に実行不可能です」。
 この弁護士の懸念も、わからないではありません。他者の利益を立脚点とした上で、真理を実践し、行動評価を行うよう求める倫理システムは、どんなものであれ、大きな負担を伴います。そのようなテストは、誠実さと野望のバランスを取るのに腐心している人たちに、苦痛に満ちた葛藤(かっとう)を与えることにもなります。一つの生活様式として、それを現実的に実行できるかどうかをめぐって、世界中で熱い議論が戦われてきました。懐疑深く、消極的な考え方しかできない人たちはさておき、ロータリアンの中にも、四つのテストは極度に単純化された哲学であって、その有用性は疑わしく、相矛盾する趣旨からなっており、目標は非現実的である、と真剣に考えている人たちが常に存在します。
 このテストは、自らの動機と目標を思慮深く検討するよう求めるものです。真実、公平さ、思いやりに対する強調は、道徳的要素を多く含有しているため、“倫理的消化不良”を起こしてしまう人たちも確かにいます。しかし、1930年代のクラブ・アルミニウム社においては、あらゆることが、四つのテストに照らして判断されたのです。まず広告に対してそれは適用されました。「より良い」とか「最上の」とか、あるいは「最高の」や「最高級の」といった表現が広告から削られ、製品に関する事実に基づいた説明文が載せられることになりました。競合他社の欠点を論ずる文面も、広告や企業案内から取り除かれたのです。

難局に挑んだ四つのテスト

 四つのテストは、徐々に同社のあらゆる面における指針となっていき、ディーラーや顧客、そして従業員の間に、同社に対する信頼と好意が生まれることになりました。四つのテストは、社風の一部となり、やがて、クラブ・アルミニウム社に対する信望は高まり、財政の改善に寄与することとなったのです。
 ある日のこと、販売部長が、調理器具5万点の注文が取れるかもしれないと発表しました。売り上げは低迷状態にあり、会社は依然として倒産の危機から脱していませんでした。最高幹部の人たちは、明らかにこの販売の機会を逃すことなく、商談が成立することを望んでいました。しかし、一つの問題点がありました。販売部長が聞いたところでは、注文主である業者は商品を値引きして販売したいというのです。「これでは、これまでわが社の製品を地道に宣伝し販促してきてくれたディーラーに対して不公平となります」というのが販売部長の意見でした。結局、この注文は断ることになりました。その年には、ほかにいくつか厳しい決断が下されましたが、これは、その中でも最も苦渋に満ちた決断の一つでした。この取引を行っていれば、疑う余地もなく、同社が営業活動のよりどころとする四つのテストを嘲笑(ちょうしょう)することになったでしょう。
 1937年までに、同社の負債は完済され、その後の15年間では、株主に対して100万ドル以上もの配当が支払われました。また、同社の純資産は200万ドル以上に達しました。
 いかがですか? これでも、あまりに理想的すぎて実社会には向かない、とお考えですか? 四つのテストは、ビジネスという厳しく、変転きわまりない世界で生まれ、経済界が経験した最も過酷な時代の中で、厳密な試験を経てきたのです。それは、実業界という競争の場で生き残ってきたものなのです。
 1942年、当時の国際ロータリー(RI)理事のシカゴのリチャード・ベナー氏が、ロータリーもこのテストを取り入れるべきだとの提案をしました。RI理事会は、1943年1月にベナー氏の提案を承認し、四つのテストを職業奉仕プログラムの一つの構成要素としました。もっとも、このテストは、今日では四大奉仕部門のすべてにおける不可欠の要素として認識されています。
 ハーブは、ロータリーの創立50周年記念にあたる1954-55年度、RI会長に就いた時、四つのテストの著作権をRIに移譲しています。

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今こそ必要なのは倫理的誠実さ

 1930年代に誕生して以来、60年以上の歳月が過ぎ去ったこの現代社会では、ある人たちが批判するように、四つのテストは、その有効性を喪失してしまっているのでしょうか?それとも、変化のテンポの速いこの時代においても、事業や専門職に携わる人たちの指針として機能するに足る洗練さを保持しているのでしょうか?
 真実かどうか―真実は不変であり、時代を超越するものです。真実は正義なくしては存在し得ません。
 みんなに公平か―顔を突き合わせてとは言わないまでも、腕を伸ばせば届くような所で、激しくやり合うビジネス手法に代わり公平さを取り入れたビジネスは、お互いの関係を傷つけるよりも、その関係向上に役立ってきました。
 好意と友情を深めるか―人は生まれながらにして、他者と協力して生きていく存在であり愛情を示すことは生来備わっている本能です。
 みんなのためになるかどうか―この項目は、食うか食われるかを原則とする無慈悲な競争を排除するものであり、それに代わって建設的で創造的な競争を導入するものです。
 四つのテストは国家という枠を超えたものであり、国境や言葉の障壁を超越するものです。そこには、政治や独断や特定の信条は介在しません。一つの倫理規範としての存在以上である四つのテストは、いかなる形であれ、人生を成功に導くための要素を含み持っています。それは今日の社会でも有効性を保持し、かつ実効性のあるものなのです。
 最終的なテストは、実際に行動することにあります。著名な心理学者であるウィリアム・ジェームズ(1842~1910年)は、「真実が意味するところの究極的なテストは、それが指示あるいは示唆する行動である」と、言っています。今日のロータリーの中核には、倫理的卓越性を使命とする四つのテストが存在します。人類は、共に繁栄することができるのです。現代のビジネスは、誠実かつ信頼のおけるものであり得るのです。人々は、お互いを信じ合うようになれるものなのです。
 1977年のサンフランシスコ国際大会で、米国の取引改善協会(不正広告の排除など商道徳の改善を目指す実業家・生産者の団体)のジェームズS.フィッシュ氏は、次のように語っています。「競争を原理とする企業経営システムが存続するためには、厳格な倫理規範という枠組みが必要です。実際のところ、資本主義制度の全体構造そのものが、信頼というものに大きく依存しています。つまり、ビジネスに携わるすべての人たちは、お互い同士だけでなく、大衆や消費者や株主や従業員とも、公平かつ誠実に対応するという信頼関係に依存しているのです」。
 現代社会が今いちばん必要としているものは倫理的誠実さであると言ってもいいでしょう。四つのテストは、人々が価値ある目標を追い求める際の指針として活用できます。その目標とは、友人を探し選び、その友人関係を維持すること、周りの人たちと友好関係を築くこと、幸福な家庭生活をつくりあげること、高い倫理的・道徳的基準を設定し身につけること、自ら選択した事業や専門職で成功を収めること、より良き市民となり、次の世代にとっての良き手本となること、といったことです。
 簡潔さの中に多くが語られ、感動的なまでに力強く、実のある成果を必ずもたらすこの四つのテストは、緊張と混乱と不確実性に満ちたこの世界のただ中に、清新で明るさにあふれた未来展望を与えてくれるのです。

四つのテストは、100か国以上の言語に翻訳されています。

 1954年に日本の大阪ロータリークラブは、四つのテストをバナーに印刷した最初のクラブとなりました。また、日本の別のクラブでは、にわか雨に降られてしまった通勤客たちに傘を貸し出すプロジェクトを開始しましたが、ある会員は、通勤客が借りた傘を返してくれるかどうか自信がありませんでした。そこで、別の会員が、傘の内側に四つのテストを印刷することを提案しました。数か月後、傘は数多くの人たちに利用され、すべて返却されました。四つのテストは、人々の心の中に深く刻み込まれ、目に見える形で表現されています。
クリスチャンサイエンティスト
 1866年、米国のM・エッディ夫人創立のキリスト教団体、Christian Scienceという宗派の人のこと。この宗派は、罪、病気、悪は虚妄と悟ることによって、万病は癒えると主張することに、特徴があります。

参考サイト「ロータリージャパン

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